職場で協力してくれる人を増やすには――組織行動論から考える6つの方法

同じ職場で働いていても、困ったときに自然と情報や協力が集まる人もいれば、問題を一人で抱え込みやすい人もいます。こうした違いは、単に「人望がある」「性格がいい」「コミュニケーション能力が高い」といった言葉だけでは十分に説明できません。そう説明してしまうと、結局のところ自分が具体的に何を変えればよいのかが見えにくくなるからです。

実際の職場は、職務分掌や担当業務だけで動いているわけではありません。困っている同僚を助ける、必要な情報を共有する、誰かが見落としている問題に気づいて声をかけるなど、正式な職務を超えた自発的な行動によって支えられている部分があります。こうした行動は、組織行動論では組織市民行動(Organizational Citizenship Behavior: OCB)などとして研究されてきました(Podsakoff et al., 2000)。

ただし、ここで考えたいのは「どうすれば他人を動かせるか」ということではありません。人間関係を操作したり、先に恩を売ったりして協力を引き出そうとすると、短期的にはうまくいっても、持続的な関係にはつながりにくいでしょう。むしろ重要なのは、「この人とは安心して協力できる」と周囲から予測される関係をどうつくるかという視点です。

そのため本記事でいう「協力してくれる人を増やす」とは、単に協力者の人数そのものを増やすことではありません。援助、相談、情報共有などの協力行動が、上司・同僚・部下という立場を問わず、周囲との間で生じやすい関係を広げていくことを意味します。

そのためにできることは、特別な交渉術ではありません。周囲への小さな支援を惜しまないこと、相談されたときに相手を萎縮させないこと、立場によって恣意的に態度を変えないこと、信頼される行動を積み重ねること、知識を共有すること、そして協力への感謝を言葉にすることです。本記事では、こうした6つの方法を順番に考えていきます。

一方で、協力すればするほどよいわけでもありません。人を助けるには、時間、注意、労力が必要です。誰にでも無制限に協力すれば、自分の重要な仕事が後回しになることもあります。そこで最後に、協力しすぎることの限界と、どこまで協力するかという資源配分の問題についても検討します。

なお、本記事は協力関係をどう形成するかを扱いますが、すでに関係が難しくなっている相手への対処は別の問題です。そうした場合には、「気の合わない上司とどう働くか――人間関係で消耗しないための7つの考え方」で扱っているように、相手を変えようとするより、自分が変えられる部分に注意を向けるという別の戦略が必要になります。

目次

職場でいう「協力」とは何か――組織市民行動から考える

職場の仕事は、正式な職務記述や担当業務だけで成り立っているわけではありません。実際には、困っている人を助ける、必要な情報を伝える、誰かが見落としている問題に気づいて声をかける、職場全体が円滑に動くよう自発的に行動するといった、明文化されにくい行動によって支えられている部分があります。

こうした行動は、組織行動論では組織市民行動(Organizational Citizenship Behavior: OCB)などとして研究されてきました。難しく考える必要はありません。ここでは、職務として明示されていなくても、職場を機能させるために自発的に行われる行動と理解すれば十分です。OCBには、他者を助ける援助行動のほか、職場や組織にとって有益な自発的行動が含まれます(Podsakoff et al., 2000)。

たとえば、自分の担当ではないからと完全に切り離すのではなく、数分で済む範囲なら手助けする。自分だけが知っている情報を、必要な人に伝える。問題が起こりそうなときに、誰かに言われる前に共有する。こうした行動は、正式な役割だけを見ていると見落とされやすいですが、実際の職場では仕事を前に進めるうえで重要な役割を果たします。

ただし、本記事でいう「協力してくれる人を増やす」とは、自分の仕事を代わりにしてくれる人を増やすことではありません。また、「協力者」を自分に利益を与えてくれる人として数えることでもありません。

ここで考えるのは、援助、相談、情報共有などの協力行動が、上司・同僚・部下という立場を問わず、周囲との間で双方向に生じやすい関係を形成することです。困ったときには相談でき、自分にできることがあれば相手を助け、必要な情報があれば共有する。そうしたやり取りが一方向ではなく、関係のなかで循環しやすい状態を目指します。

この点は重要です。OCBの研究から、「自分が協力的に振る舞えば、必ず相手も協力してくれる」とまでは言えません。人の行動は、相手との関係だけでなく、職場の制度、上司の行動、業務量、チームの雰囲気など、さまざまな要因の影響を受けるからです。したがって、協力を「先に与えれば後で返ってくる」という単純な交換として捉えるのは適切ではありません。

むしろ重要なのは、自分自身が、協力行動が生まれやすい関係の一部になることです。そのためにできることとして、周囲への小さな支援、相談しやすい反応、公正な接し方、信頼される行動、知識共有、感謝の表明などを、これから順に考えていきます。

一方で、協力には時間や注意、労力が必要です。自発的に周囲を助けることが、常に本人にとって利益になるとは限りません。協力しすぎれば、自分の本来業務や重要な仕事に使う資源が減る可能性もあります。そこで本記事では、協力関係を広げる方法だけでなく、どこまで協力するかという限界についても後半で検討します。

方法① 周囲への小さな支援を惜しまない

職場の人間関係を考えるとき、上司との関係に注目しがちですが、実際の仕事では日常的に接する同僚との関係も重要です。ちょっとした確認、急ぎの対応、予定外のトラブルなど、仕事の多くは周囲との細かなやり取りの積み重ねで進みます。協力関係をつくる第一歩は、自分自身も周囲への支援の提供者になることです。

同僚からの支援や同僚との関係は、職務態度、組織市民行動(OCB)、パフォーマンスなど、複数の職場アウトカムと関連していることが示されています(Chiaburu & Harrison, 2008)。これは、職場において上司だけでなく、横の関係も仕事を取り巻く重要な環境の一部であることを意味します。

ただし、ここで注意したいのは、「自分が先に助ければ、その相手も後で必ず助け返してくれる」と考えないことです。この研究が示しているのは、同僚からの支援や同僚関係と、さまざまな職場アウトカムとの関連です。一対一の返報性を直接証明したものではありません。

したがって、「恩を売っておけば、いつか返してもらえる」「貸しをつくっておこう」という発想で協力するのは、本記事の考え方とは異なります。目的は相手を動かすことではなく、自分もまた、協力が生まれやすい職場関係を構成する一人になることです。

そのために、最初から大きな自己犠牲をする必要はありません。実践しやすいのは、自分の時間や労力を大きく削らない範囲の小さな援助です。たとえば、困っている人に一声かける、数分で済む作業を手伝う、急ぎのときに可能な範囲でフォローする、自分の負担が小さい依頼には応じる、といった行動です。

ここで重要なのは、「人を助ける」と聞いて何でも引き受けることではありません。自分の本来業務を止めてまで他人の仕事を抱え込めば、長期的には自分の成果や余力を失う可能性があります。必要なのは、低コストの援助を日常的な行動にすることです。

また、この節で扱っているのは主に「時間や労力を提供する援助」です。資料を共有する、詳しい担当者を紹介する、経験上の注意点を伝えるといった「知識や情報による援助」は、後の節で別に扱います。両者を分けて考えると、自分にどのような協力ができるのかも整理しやすくなります。

小さな支援は、一回ごとの負担が大きくないからこそ続けやすいという利点があります。一方で、援助の回数や範囲が広がりすぎれば、自分の仕事を圧迫することもあります。したがって、協力関係を広げることと、自分の時間や注意を守ることは同時に考える必要があります。協力することにも限界があり、どこまで助けるかは資源配分の問題でもあるという点は、記事後半で改めて検討します。

方法② 「この人には相談しても大丈夫」と思われる人になる

職場で協力関係を築くには、周囲を助けるだけでなく、相手が自分に質問や相談を持ち込みやすい状態をつくることも重要です。仕事では、分からないことを尋ねる、ミスを報告する、異なる意見を述べるといった行動が必要になります。しかし、これらには「能力がないと思われるかもしれない」「怒られるかもしれない」「人間関係が悪くなるかもしれない」という対人的なリスクが伴います。

この問題を考えるうえで重要なのが、心理的安全性(psychological safety)です。心理的安全性は、単に「職場の仲がよい」「居心地がよい」という意味ではありません。もともとは、チームにおいて対人的なリスクを取っても安全だという共有された認識として捉えられています。心理的安全性とチームの学習行動との関係が示され、その後の研究を統合したメタ分析でも、組織市民行動(OCB)やパフォーマンスなど、複数の職場アウトカムとの関連が検討されています(Edmondson, 1999; Frazier et al., 2017)。

では、個人として何ができるのでしょうか。ここで重要なのは、「何でも相談してください」と言うこと以上に、実際に質問や相談を受けた瞬間にどう反応するかです。相談を歓迎すると口では伝えていても、初歩的な質問に苛立ったり、ミスの報告をした相手をすぐに責めたりすれば、次から相手は相談すること自体をためらうかもしれません。

たとえば、初歩的な質問であっても馬鹿にしない。ミスの報告を受けたら、まず何が起きたのかを確認する。自分と異なる意見が出ても、意見を述べた人そのものを敵視しない。そして、自分にも分からないことがあると認める。こうした対応は、特別な制度がなくても個人が日常の仕事のなかで意識できます。

とくに注意したいのは、質問や報告の「内容」と、それを伝えた「行為」を分けることです。報告されたミスについて改善を求める必要がある場合でも、早い段階で質問したことや問題を報告したこと自体まで責める必要はありません。内容について検討することと、問題を表に出した行動を否定することは別の問題です。

こうした反応が重要なのは、相談が一方向の情報提供ではないからです。自分が知らなかった問題を相手から教えてもらえることもあれば、自分だけでは気づかなかった異論によって判断を修正できることもあります。つまり、相談されやすい状態をつくることは、相手を助けるだけではなく、自分自身が必要な情報へアクセスしやすくなる関係を整えることでもあります。

ただし、心理的安全性は一人の性格や態度だけで完結するものではありません。チームの人間関係やリーダーシップ、職場環境など、複数の要因が関係します。そのため、「自分一人の努力で心理的安全性の高い職場をつくれる」と考えるのは適切ではありません。

個人として目指せるのは、もっと限定されたことです。質問されたときに嘲笑しない。問題が報告されたときに、まず耳を傾ける。異論が出たときに、相手ではなく内容を検討する。そうした反応を積み重ね、自分自身が心理的安全性を損なわない行動を取ることです。「この人に分からないと言っても大丈夫」「問題が起きたら早めに相談できる」と思われることは、協力が生まれやすい関係を形成する一つの土台になります。

方法③ 相手によって扱いを大きく変えない

職場で協力関係を築くうえでは、相手から「自分はどのように扱われるのか」をある程度予測できることも重要です。上司には丁寧に接する一方で部下には横柄になる、親しい人には情報を詳しく伝えるのに、それ以外の人には十分に説明しないといった対応が続けば、相手によって扱いを変える人だと受け取られる可能性があります。ここで手がかりになるのが、組織的公正(organizational justice)という考え方です。

組織的公正は、単に「結果が平等だったか」という問題だけではありません。誰が何を受け取ったかという結果に加えて、意思決定の手続きが公正だったか、相手が尊重され丁寧に扱われたか、判断について十分な説明がなされたかなど、複数の側面から研究されてきました。こうした公正性は、職務態度、組織市民行動(OCB)、パフォーマンスなど、さまざまな職場アウトカムとの関連が示されています(Colquitt et al., 2001)。

個人が日常の職場で意識しやすいのは、相手の地位や自分との親しさによって、対人的な扱いを恣意的に変えないことです。たとえば、上司には敬意を払うのに部下には乱暴な言葉を使う、親しい同僚にだけ有利な情報を流すといった行動は避ける必要があります。役職や関係性が違えば話し方や伝える情報の範囲が変わることはありますが、最低限の礼節まで変える必要はありません。

同じことは、ミスや問題への対応にも当てはまります。他人のミスには厳しいのに、自分が同じ失敗をしたときには事情を理由に正当化する。ある人の失敗は強く責めるのに、親しい人の同程度の失敗は見過ごす。こうした適用する基準の大きな揺れは、周囲にとって対応を予測しにくくする要因になります。

また、すべての判断で相手の希望どおりの結果を出せるわけではありません。業務上の優先順位やルールによって、依頼を断ったり、誰かに負担を求めたりしなければならない場合もあります。そのときにできるのが、可能な範囲で判断理由を説明することです。「なぜ今回はこの対応になるのか」「どのような基準で判断したのか」が分かれば、望んだ結果ではなかったとしても、判断の過程を理解する材料になります。

ただし、公正に接することは、すべての人を完全に同じように扱うことではありません。担当業務、経験、責任、置かれた状況が違えば、必要な対応も変わります。重要なのは、違いそのものではなく、その違いに説明可能な理由があるかどうかです。

したがって、目指すべきなのは「誰に対してもまったく同じ人」ではありません。上司、同僚、部下という立場や個人的な好き嫌いだけを理由に、礼節や判断基準を大きく変えないことです。「相手によって恣意的に扱いを変えない人」になることは、周囲が自分との関係を予測しやすくするための一つの基盤になります。

もちろん、組織的公正に関する研究から「公平に接すれば協力してくれる人が増える」と直接的な因果関係まで結論づけることはできません。ここで重要なのは、公正さを協力を引き出すための手段として使うことではなく、安心して一緒に仕事ができる関係をつくるための基本的な行動原則として位置づけることです。

方法④ 「この人なら任せられる」と思われる行動を積み重ねる

職場で協力関係を築くには、相手から信頼されることも重要です。ただし、ここでいう信頼は、単に「人柄がよい」「感じがよい」という意味ではありません。仕事では、自分の判断や情報、時間、場合によっては自分の成果の一部を相手に委ねることがあります。信頼(trust)や、相手がどの程度信頼に値すると判断されるかという信頼性(trustworthiness)は、こうしたリスクを引き受ける行動や職務遂行などとの関係が研究されています(Colquitt et al., 2007)。

相手が信頼に値するかを考えるうえでは、能力(ability)、善意(benevolence)、誠実さ(integrity)という3つの観点が重要です。職場で「この人なら任せられる」と思われるためには、単に約束を守るだけではなく、この3つを分けて考えると具体的な行動が見えやすくなります。

能力――「この仕事を任せられる」と思われる

能力とは、その仕事や領域で必要な知識や技能を持っていることです。これは「何でもできる人になる」という意味ではありません。むしろ仕事では、自分ができることと、できないことを適切に判断できることも重要です。

分からない仕事を分かったふりをせず、必要なら確認する。自分だけでは対応できない問題なら、詳しい人や適切な担当者につなぐ。こうした行動は、一見すると自分の能力不足を示すように感じるかもしれません。しかし、曖昧な知識のまま引き受けて問題を大きくするより、自分の能力の範囲を見極めて適切に対応する方が、「何を任せられる人なのか」を周囲が判断しやすくなります。

善意――相手を不必要に困らせない

善意とは、相手との関係において、自分の利益だけを追求するのではなく、相手への配慮が期待できることです。職場では、自分だけが得をするように情報を扱ったり、自分の負担を減らすためだけに他人へ仕事を押しつけたりすれば、能力が高くても安心して協力できる相手とは受け取られにくいでしょう。

だからといって、常に相手を優先して自己犠牲をする必要はありません。重要なのは、自分の利益のために相手を不必要に困らせないことです。自分と相手の双方に利害があることを前提にしながら、相手の事情も考慮して行動するという意味です。

誠実さ――言ったことと行動をできるだけ一致させる

誠実さとは、受け入れられる原則に従い、言動に一貫性があると相手から判断されることです。日常の仕事に落とし込むなら、小さな予告と実際の行動をできるだけ一致させることが一つの実践になります。

「今日確認します」と言ったなら、その日のうちに確認する。「資料を送ります」と言ったなら、実際に送る。もちろん、仕事では予定どおりにできないこともあります。その場合には、約束を守れないことが分かった時点で、「今日は確認できないので明日までに回答します」と予定を修正して伝えることができます。

ここで重要なのは、一度も約束を破らない完璧な人になることではありません。状況が変わったときにも放置せず、相手が次の行動を判断できるように伝えることです。そうすれば、相手にとって自分の行動を予測しやすくなります。

ただし、Colquitt et al. (2007)から、「小さな約束を守る回数が増えるほど信頼が高まる」という具体的な因果関係が直接示されているわけではありません。「今日確認する」「資料を送る」といった例は、信頼性に関する考え方、とくに誠実さを日常の仕事へ応用したものです。

職場で信頼されることを考えるなら、「いい人と思われるにはどうするか」だけを考える必要はありません。任せられる能力があること、相手への配慮が期待できること、言動に一貫性があること。この3つの観点から自分の行動を整えていくことが、「この人なら任せられる」と判断される関係を考えるための手がかりになります。

方法⑤ 情報を抱え込まず、必要な知識へ人をつなぐ

職場で人を助ける方法は、相手の仕事を代わりに処理したり、自分の時間を使って作業を手伝ったりすることだけではありません。自分が持っている情報を共有する、必要な資料の場所を教える、詳しい人を紹介するといった行動も協力の一つです。第2節で扱った「時間や労力による援助」と区別すると、ここで重要になるのは「知識や情報による援助」です。

組織における知識共有(knowledge sharing)は、個人の態度だけで決まる単純な行動ではありません。知識を共有しようとする意図や実際の共有行動には、個人レベルの要因だけでなく、対人関係や組織の環境など複数の要因が関係しています(Witherspoon et al., 2013)。したがって、職場全体の知識共有を一人の努力だけで変えられるわけではありません。それでも、自分が持つ知識をどのように扱うかは、個人として選択できます。

たとえば、同僚が以前と似た問題に直面しているなら、過去の類似資料がどこにあるかを伝えることができます。制度や手続きについて質問された場合も、すべてを自分で説明する必要はなく、必要な規程や信頼できる情報源を示す方法があります。自分より詳しい人がいるなら、その担当者や専門家を紹介することもできます。協力とは、自分で相手の問題を解決することだけではありません。

さらに価値があるのは、自分の経験のなかに蓄積された知識を共有することです。仕事を長く続けていると、「この手続きではここを確認した方がよい」「この時期には早めに準備した方がよい」といった、文書だけでは分かりにくい知識が蓄積されます。こうした経験に基づく知識は、本人にとっては当たり前になっているため、他の人には見えにくいことがあります。

そこで、経験のなかにある暗黙的な知識を、可能な範囲で言葉にして残すことも有効です。質問された人だけに口頭で答えて終わるのではなく、よく使う資料の保存場所を整理する、手順や注意点を簡潔に記録する、後から検索できる場所に情報を残すなど、一度得た知識を他の人が再利用できる形にするという方法があります。

これは、自分が職場のあらゆることを知っている必要があるという意味ではありません。むしろ複雑な仕事になるほど、一人ですべての知識を持つことは困難です。分からないことについて無理に答えるより、「その問題ならこの資料を見るとよい」「この分野ならこの人が詳しい」と案内できる方が、相手が必要な知識へ到達しやすくなります。

反対に、情報を自分だけが知っている状態を維持することで、自分の価値を守りたいと感じることもあるかもしれません。しかし、特定の人に聞かなければ仕事が進まない状態は、組織にとって必ずしも望ましいとは限りません。個人の価値を「情報を独占していること」に置くのではなく、必要な知識へ人をつなげられることにも置くという考え方ができます。

もちろん、知識を共有すれば、その結果として自分への協力が必ず増えるとまでは言えません。また、機密情報や個人情報など、共有してはいけない情報まで広げるべきではありません。ここで目指すのは、何でも教える人になることではなく、共有できる範囲を見極めながら、必要な人が必要な知識へ到達するのを助けることです。「何でも知っている人」ではなく、「必要な知識へ人をつなげられる人」になることも、職場で協力関係を支える一つの方法です。

方法⑥ 協力してもらったら、感謝を言葉にする

職場では、誰かに助けてもらっても、そのまま次の仕事へ進んでしまうことがあります。急いでいるときほど、資料を探してもらったことや、質問に答えてもらったことを「仕事なのだから当然」と受け止めてしまいがちです。しかし、協力関係を考えるうえでは、受けた協力を当然のものとして処理せず、感謝を明示的に伝えることにも意味があります。

感謝(gratitude)と、人を助けるといった向社会的行動(prosocial behavior)との関係は、実験でも検討されています。援助した相手から感謝を表明されることが、その後の向社会的行動を促す可能性が示されており、その背景には、感謝された人が自分の行動には社会的な価値があると感じることなどが関係していました(Grant & Gino, 2010)。

また、より広い研究を統合したメタ分析でも、感謝と向社会性(prosociality)には正の関連が報告されています(Ma et al., 2017)。もちろん、感謝さえ伝えれば相手が次も助けてくれるという単純な関係ではありません。それでも、感謝を単なる形式的な礼儀としてではなく、相手の協力に価値があったことを伝える行為として捉えることはできます。

実践の第一歩は難しくありません。何かを手伝ってもらったら、「ありがとうございます」と明確に言葉にします。心のなかでありがたいと思っていても、その気持ちが相手に自動的に伝わるわけではありません。とくに日常的に助け合っている職場では、協力が当たり前になるほど、あえて言葉にする機会が減ることがあります。

さらに実践上は、感謝だけで終わらせず、相手の協力がその後どう役立ったのかを返す方法も考えられます。たとえば、「教えてもらった方法で処理できました」「資料を送ってもらったので間に合いました」「紹介してもらった担当者に確認して解決しました」と伝えます。これは単に「ありがとう」を強調するのではなく、相手の行動がどのような価値につながったのかを見える形で返すフィードバックです。

ただし、ここは研究結果と実践上の提案を分けて考える必要があります。先行研究から、「成果まで具体的に伝える方が、通常の感謝より必ず大きな効果を生む」と結論づけることはできません。協力がどう役立ったかまで伝えることは、相手に結果を共有するための実践的な工夫として位置づけるのが適切です。

また、感謝を「次も助けてもらうための方法」と考えるべきではありません。「ありがとう」と言えば次回も協力してもらえると期待するなら、感謝そのものが相手を動かすための手段になってしまいます。本記事で重視するのは、貸し借りを管理することではなく、受けた協力を認識し、その価値を相手へ返すことです。

職場の協力は、一人だけでは成立しません。誰かが時間や知識を提供してくれたなら、その行動を当然視せず、言葉にして受け止める。こうした小さなフィードバックを積み重ねることも、「この人とは協力して仕事ができる」と思われる関係を考えるうえで重要な行動の一つです。

協力しすぎない――協力にも「機会費用」がある

ここまで、周囲を支援する、相談しやすい反応をする、公正に接する、信頼される行動を積み重ねる、知識を共有する、感謝を伝えるという6つの方法を見てきました。しかし、これらを「頼まれたことはできるだけすべて引き受ける」と理解するのは適切ではありません。職場での自発的な協力は重要ですが、協力することが本人にとって常にプラスになるとは限らないからです。

この問題は、組織市民行動(OCB)に使う時間と、本来の職務に使う時間との関係から研究されています。とくに、個人の成果が重視される成果ベースの統制が行われる環境では、OCBに多くの時間を使うことと、本来のタスクに時間を使うこととの間にトレードオフが生じ、それが給与や昇進などのキャリア成果と関係する可能性が示されています(Bergeron et al., 2013)。

ただし、この結果から「人を助けると昇進できなくなる」と一般化することはできません。研究対象となった組織や評価制度には特定の条件があり、異なる職種や組織でも同じ結果になるとは限らないからです。ここから得られる重要な示唆は、協力をやめることではなく、他者を助けるために使った時間には、別の仕事に使えなくなるという機会費用があると認識することです。

協力を続けることに伴う負担については、「シチズンシップ・ファティーグ(citizenship fatigue)」という観点からも研究されています。これは、職務として必須ではない貢献を続けることに関連して感じる疲労や消耗を捉える概念です。ただし、OCBを行えば誰もが一律に疲弊するわけではありません。組織からどの程度支援されているか、チーム内にどのような関係があるか、OCBを行うようどの程度圧力を感じているかなどによって、その関係は異なりうることが示されています(Bolino et al., 2015)。

したがって、実践では「協力するか、協力しないか」という二択ではなく、どの協力に、どれだけ自分の資源を使うかを考える必要があります。たとえば、数分でできる援助なら比較的積極的に行う、自分の専門性を生かして短時間で解決できる支援を優先する、自分より適切な人がいる問題ならその人につなぐ、といった判断ができます。

一方で、他人からの依頼によって自分の本来業務が恒常的に遅れるのであれば、境界線を引く必要があります。すぐに対応する必要のない依頼なら時間を調整する、自分が引き受けるべき仕事なのかを確認する、重要な仕事に集中する時間を先に確保する、といった方法があります。協力することと、必要なときに断ることは両立します。

この考え方は、職場の人間関係だけにとどまりません。私たちが一日に使える時間、注意、集中力、労力には限りがあります。ある仕事に時間を使えば、その時間を別の仕事には使えません。協力に時間を使うか、本来業務に時間を使うかという問題も、結局は限られた人生資源を何に、どれだけ配分するかという問題です。「タイパ・コスパを追求すると幸せになれるのか――効率化と幸福の研究から考える人生の資源配分」でも扱ったように、効率だけを最大化することが目的なのではなく、何に時間を使う価値があるのかを考える必要があります。

だからこそ、協力的な人になることと、「何でも引き受ける人」になることは区別しなければなりません。周囲との協力関係は、仕事を進めるための重要な資源になりえます。しかし、その関係を維持するために自分の重要な仕事を恒常的に犠牲にすれば、長期的には持続しません。自分の仕事を守りながら、価値のある協力には時間と労力を配分することが、持続可能な協力関係をつくるためのもう一つの条件です。

協力者を増やすとは、「協力したくなる人」になることである

職場で協力してくれる人を増やすために、本記事では6つの方法を考えてきました。周囲への小さな支援を惜しまない。「この人には相談しても大丈夫」と思われる反応をする。相手によって扱いを大きく変えない。「この人なら任せられる」と思われる行動を積み重ねる。必要な知識へ人をつなぐ。そして、協力してもらったら感謝を言葉にすることです。

これらに共通しているのは、人を操作して自分のために動かすことではありません。「相談できる」「可能な範囲で助けてくれる」「公平に接してくれる」「仕事を任せられる」「安心して情報を共有できる」と予測される関係をつくることです。そうした予測可能性は、一度の特別な行動ではなく、日々の小さなやり取りから形成されていきます。

ただし、すべての人と強い協力関係を築く必要はありません。人間関係を維持するにも時間と注意が必要です。広く小さな協力を行いながら、重要な仕事を共にする相手とは時間をかけて信頼を形成する。一方、自分の重要な仕事を恒常的に犠牲にしなければ維持できない関係には、必要な境界線を設ける。最終目標は「誰にでも親切な人」になることではなく、有限な時間・注意・労力を使って持続可能な協力関係を形成することです。

必要なときに相談できる人がいること、必要な情報にアクセスできること、自分だけでは解決できない問題で他者の力を借りられることは、長期的なキャリアの選択肢を支えうる要素でもあります。人生を長期的に考えれば、人間関係も金融資産とは異なる形で、将来の選択肢を支える重要な資源になりえます。この視点は「40代から何に投資すれば老後は幸せになるのか――晩年の幸福を支える5つの資本」で考えた、人生における複数の資源への投資ともつながります。

職場で協力者を増やすとは、人脈の数を増やすことではありません。「この人とは協力して仕事ができる」という関係を、日々の小さな行動から蓄積していくことなのです。

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