夫婦円満のために何をすればいい?研究から考える意外な8つの習慣

夫婦円満の秘訣として、「価値観が合うこと」「会話を増やすこと」「できるだけ喧嘩をしないこと」などがよく挙げられます。もちろん、こうした要素にも意味はあります。しかし、長く続く夫婦関係を考えるとき、それだけでは捉えきれないことがあります。

夫婦・カップルを対象とした研究では、もっと日常的で、一見すると些細に見える行動も関係の質と結びついています。その一つが、相手に良いことが起きたときの反応です。私たちは、相手が落ち込んでいるときに支えることの大切さは意識しやすい一方で、相手が嬉しい出来事を話してきたときに、どのように応じるかは見過ごしがちです。

ところが、良い出来事を誰かと共有することは、その出来事そのものとは別に、日々のポジティブな感情やウェルビーイングと関連しています。さらに、親しい相手から積極的で好意的な反応を受け取ることは、親密さや関係の質とも結びついていました(Gable et al., 2004)。つまり夫婦関係では、困ったときに支え合うだけでなく、相手の喜びを一緒に広げることにも意味があるのです。

こうした視点から研究を見ていくと、夫婦円満に関係する要素は意外なところまで広がります。ときどき新しい経験を二人ですること、何でもない行動を二人だけの習慣にすること、お金をどのように扱うか、家事をどう分担するか、十分に眠れているか、感謝をどう伝えるか、さらには性生活の後をどのように過ごすかまで、さまざまな側面が研究されています。

ただし、これら8つの知見の証拠の強さは同じではありません。実験によって行動の影響を検討した研究もあれば、夫婦を長期間追跡した研究、毎日の出来事を記録した研究、関係性を観察した研究もあります。そのため、この記事は「この8つを実践すれば必ず夫婦円満になる」と主張するものではありません。

ここで考えたいのは、現在までの研究から得られる手がかりを、日常生活でどのように生かせるかです。夫婦円満を単に「愛情があるかどうか」と考えるのではなく、二人の関係を日々の生活のなかでどう維持し、更新していくかという問題として、8つの習慣を見ていきます。

目次

習慣① 相手の「良いニュース」にきちんと反応する

夫婦関係というと、相手が落ち込んでいるときに励ましたり、困っているときに支えたりすることが大切だと考えがちです。もちろん、それは重要です。しかし、人間関係では「悪いことが起きたとき」だけでなく、「良いことが起きたときに、相手がどう反応してくれるか」にも意味があります。

たとえば、配偶者が「今日、仕事で褒められた」と話してきたとします。そのとき、「そうなんだ」「よかったね」と答えることもできます。一方で、「それは嬉しいね。どんなところを褒められたの?」と関心を示せば、その出来事についてさらに話すきっかけが生まれます。このように、良い出来事を他者と共有し、その喜びが広がっていく過程は「capitalization」と呼ばれています。

良い出来事を他者に伝えることについて4つの研究から検討した結果、ポジティブな出来事を誰かと共有することは、その出来事そのものの影響を考慮したうえでも、日々のポジティブ感情やウェルビーイングの高さと関連していました。また、恋人や配偶者に良い出来事を話したとき、相手から熱意や関心を伴う積極的・建設的な反応を受け取っていると感じる人ほど、親密さや関係の質も高い傾向が示されています(Gable et al., 2004)。

ここで重要なのは、単に「ポジティブな言葉を返せばよい」ということではありません。積極的・建設的な反応には、相手の喜びを認めるだけでなく、その出来事に関心を向け、話を広げる要素が含まれます。相手にとって大切な出来事を「自分にも関係のあること」として受け止める反応だと考えると、分かりやすいでしょう。

これは、「悪いことが起きたときの支えより、良いことへの反応の方が重要」という意味ではありません。苦しいときの支援と、嬉しいときの反応は、それぞれ異なる場面で関係を支えるものです。研究から読み取れるのは、困難への対応だけを考えていては、夫婦関係の一面しか見ていないということです。

日常生活に置き換えるなら、「今日どうだった?」と聞くだけでなく、ときには「今日、何か良いことあった?」と聞いてみてもよいでしょう。そして良い出来事が出てきたら、すぐに自分の話へ移らず、一つだけ質問を返してみる。これは研究で効果が保証された処方箋ではありませんが、良い出来事への積極的な反応という知見を日常に生かす一つの方法です。

夫婦円満には、相手がつらいときに苦しみを一緒に引き受けることだけでなく、相手に起きた喜びを二人で広げていくことにも意味があるのです。

習慣② ときどき新しく、少し刺激のあることを二人でする

長く一緒に暮らしていると、夫婦の生活は少しずつ安定していきます。休日に行く場所、外食する店、家での過ごし方などが決まってくるのは、必ずしも悪いことではありません。予測できる日常には安心感があり、二人で生活していくうえで大切な基盤になります。

一方で、安定した日常のなかに、ときどき新しい経験を取り入れることも、夫婦関係に意味を持つ可能性があります。その背景にある考え方が「self-expansion」です。これは、新しい活動や経験を通じて知識や能力、ものの見方などが広がっていくことを捉える考え方です。親密な関係では、こうした自己の広がりをパートナーと共有することが、関係の質にも結びつくと考えられています。

夫婦・カップルを対象にした研究では、日常生活のなかで二人が一緒に参加している活動について調べた研究に加え、実際にカップルに異なる種類の活動をしてもらう実験も行われています。そこでは、単に楽しい活動をすることではなく、新奇性があり、ある程度の刺激を感じる活動を二人で経験することが検討されました。こうした活動への共同参加は、関係の質の高さと関連し、実験でも、より日常的な活動などと比べて、活動後の関係の質が高く評価されました(Aron et al., 2000)。

ここで注意したいのは、「新しいことなら何でもよい」のではなく、新しさと適度な刺激や挑戦を二人で共有することが研究のポイントだったということです。反対に、危険なことや強すぎる刺激を求める必要があるわけでもありません。

日常生活に置き換えれば、高価な旅行や豪華なデートを計画する必要はありません。行ったことのない場所を散歩する、二人とも作ったことのない料理に挑戦する、普段なら選ばない店に入る、詳しくない分野の展覧会を見に行くなどでも、「二人にとって新しい」という条件をつくることはできます。こうした具体例そのものの効果が研究で個別に確認されているわけではありませんが、研究知見を生活へ応用する方法として考えることができます。

長期的な関係では、安心できる日常をつくることと、変化を取り入れることは対立するものではありません。いつもの生活を大切にしながら、ときどき二人で「初めて」を経験する。長く続く夫婦関係には、安心だけでなく、少量の「未知」を残しておくことにも意味があるのです。

習慣③ 何でもない行動を「二人だけの儀式」にする

夫婦の時間を大切にしようとすると、「記念日に特別な場所へ行く」「旅行を計画する」といった非日常のイベントを思い浮かべるかもしれません。しかし、二人の関係に意味を持つのは、特別な出来事だけではありません。毎日の生活で繰り返している、ごく普通の行動にも注目することができます。

たとえば、朝に一緒にコーヒーを飲む、週末に同じ場所を散歩する、寝る前に少し話すといった行動です。こうした行動は、それだけなら単なるルーティンです。しかし、「これは私たちがいつもすること」と二人が捉え、そこに二人にとっての象徴的な意味が加わると、「relationship ritual」と呼べるものになります。

恋愛関係におけるこうした儀式を4つの研究から検討した結果、二人だけの儀式があると答えた人では、よりポジティブな感情を経験し、関係満足度や相手との関係を続けようとするコミットメントも高い傾向がみられました。また、同じような行動を繰り返していても、それを単なるルーティンとして捉える場合と、象徴的な意味を持つ儀式として捉える場合では、心理的な意味が異なることも示されています(Garcia-Rada et al., 2019)。

さらに興味深いのは、「二人とも、それを二人の儀式だと認識していること」が重要だった点です。カップル双方を調べた研究では、共有している行動を二人とも儀式だと捉えている場合に、より高い関係満足度との関連がみられました。片方だけが特別な意味を感じていればよい、という単純な話ではありません(Garcia-Rada et al., 2019)。

ただし、この結果から「夫婦で儀式をつくれば関係満足度が上がる」と因果関係を断定することはできません。もともと良好な関係にある夫婦ほど、二人の行動を特別なものとして認識しやすい可能性もあります。研究から慎重に読み取れるのは、繰り返される行動そのものだけでなく、二人がそこにどのような意味を共有しているかが、関係の質と結びついているということです。

そのため、夫婦円満のために新しいイベントを増やそうとする必要はありません。まずは、すでに二人で繰り返していることを探してみてもよいでしょう。毎朝飲むコーヒーでも、休日の散歩でも、寝る前の短い会話でも構いません。それを「私たちの恒例」と二人が捉えることで、いつもの行動に別の意味が生まれるかもしれません。

特別な夫婦時間を増やさなくても、普通の時間に「私たちのもの」という意味を与えることはできるのです。

習慣④ お金について「二人で決める領域」を持つ

夫婦のお金は、できるだけ分けて管理した方が揉めにくいようにも思えます。それぞれが自分のお金を自由に使い、必要な生活費だけを出し合えば、相手の支出に口を出さずに済むからです。しかし、お金の管理方法は家計の効率だけでなく、二人の関係そのものとも結びつく可能性があります。

婚約中または新婚のカップルを対象に、2年間・6回にわたって関係の変化を追った研究では、参加者を無作為に異なる条件へ割り当てました。具体的には、二人のお金を共同口座へまとめる条件、別々の口座を維持する条件、特に変更を求めない条件などを比較しています。その結果、別口座を維持した群や変更を求めなかった群では、新婚期に一般的にみられる関係の質の低下が生じた一方、共同口座へ資金をまとめた群では、高い関係の質が2年間にわたって維持されました(Olson et al., 2023)。

この研究が興味深いのは、単に「共同口座の夫婦は仲が良い」という相関を示しただけではない点です。もともとの性格や関係の良さによって共同口座を選んだ可能性だけでは説明できないよう、口座の扱いを無作為に割り当てています。そのため、少なくとも婚約期から新婚期という研究条件では、お金を共同化することが関係の質を維持する一因になり得ることを比較的強く示しています。

では、なぜお金を共同化すると関係に違いが生じるのでしょうか。研究では複数の経路が検討されました。共同化によって、お金の扱い方そのものへの評価が改善すること、二人の金融上の目標がそろいやすくなること、さらに「自分がこれだけ出したから相手も同じだけ返す」という交換的な考え方よりも、相手の必要に応じて支え合う規範が保たれやすくなることが示されています(Olson et al., 2023)。

ただし、この結果を「すべての夫婦は全財産を共同口座にすべき」と読み替えることはできません。研究で直接検証されたのは、特定の時期にあるカップルを共同口座などの条件へ割り当てた場合の変化です。また、「個人口座を残しながら一部だけ共同口座にする方法でも同じ効果がある」と確認されたわけでもありません。経済的な自立やリスク管理など、口座を分けることに合理性がある場合もあります。

日常生活で考えるなら、共同口座を作ること自体を目的にするより、まずは「二人のお金について、二人で決める領域があるか」を確認する方が現実的です。生活費、子どもの費用、旅行、住宅、貯蓄、老後などについて、「これは誰のお金か」だけでなく、「何を二人で実現するためのお金か」を話し合うということです。

お金の管理方法は、単に家計を効率よく回すための仕組みではありません。何を個人で担い、何を二人で担うのかという関係のあり方とも結びつき得るのです。

習慣⑤ 家事や家庭内の負担を、ときどき二人で確認する

夫婦の家事分担について考えるとき、「50対50なら公平」「どちらかに偏っていれば不公平」と、割合で判断したくなります。もちろん、実際にどちらがどれだけ家事を担っているかは重要です。しかし研究を見ると、家事の分担率だけで夫婦関係を説明することは、それほど単純ではありません。

ドイツの大規模な家族パネル調査から、5回の調査を通じて関係を継続していた1,338組のカップルを追跡した研究があります。ここでは、男性が家事をどの程度分担しているかという実際の割合と、男性自身が自分の家事貢献を公平だと感じているかを分けて検討しました。その結果、男性の家事分担率そのものから、その後の性交頻度や夫婦それぞれの性的満足度への直接的・間接的な関連は確認されませんでした。一方、男性が自分の家事貢献を公平だと評価していた場合には、1年後の性交頻度が高く、男女双方の性的満足度も高いという関連がみられました(Johnson et al., 2016)。

これだけを見ると、「家事は50対50にするより、二人が公平だと思えることの方が重要だ」と結論づけたくなります。しかし、ここでは慎重になる必要があります。

同じドイツの家族パネルのデータを用いて、同居・既婚の1,315組を別の方法で分析した研究では、異なる結果が示されています。この研究では、単純に「公平だと感じる人」と「感じない人」を比べるのではなく、同じ人のなかで家事分担や公平感が変化したときに、性生活にも変化が生じるのかを固定効果モデルによって検討しました。その結果、家事分担の変化にも、分担を公平だと感じる程度の変化にも、性的満足度や性交頻度に対する明確な効果は確認されませんでした(Hajek, 2019)。

つまり、「50対50より公平感の方が重要」という単純な法則が確立しているわけではありません。公平だと感じているカップルほど関係の別の側面もうまくいっている可能性がありますし、家事分担と夫婦関係の結びつきは、分析方法によっても見え方が変わります。

それでも日常生活への手がかりはあります。家事を「夫50%、妻50%」といった数字だけで評価するのではなく、二人が家庭を維持するために何を担っているのかを、ときどき確認することです。料理や掃除だけでなく、育児、買い物、家計管理、家族の予定調整、必要なものを覚えておくことなど、家庭には数字にしにくい負担もあります。

特に子育て期には、お金だけでなく、親の時間や注意、体力や余力も家庭内で配分する資源になります。この点は、3歳までの子どもに何へ投資すべきか――研究から考える親子の時間とお金の使い方でも、子どもへの投資をお金だけに限定せず考えています。

したがって、「きれいに半分に分けること」を唯一の正解にする必要はありません。仕事が忙しい時期、子育ての状況、体調などによって、二人が担える量は変化します。だからこそ、「今はどちらに何が集中しているか」「この状態を二人はどう感じているか」を、ときどき確認することに意味があります。

家庭内の公平さは、単純な作業比率だけでなく、現在の負担を二人がどう認識しているかまで含めて考える必要があります。

習慣⑥ 寝不足のときに重大な夫婦問題を決着させようとしない

夫婦で意見が食い違ったとき、「問題はその日のうちに解決した方がよい」と考える人もいるでしょう。しかし、深夜まで話し合いを続ければ、問題を解決しやすくなるとは限りません。何を話すか、どう伝えるかだけでなく、二人がどのような状態で話しているかにも目を向ける必要があります。

睡眠と恋愛関係の葛藤を調べた研究では、まず参加者に14日間、毎日の睡眠とパートナーとの葛藤を記録してもらいました。その結果、睡眠状態が悪かった夜の翌日には、恋愛関係でより多くの葛藤が報告される傾向がみられました。この関連は、ストレスや不安、抑うつ、関係満足度などを考慮しても確認されています(Gordon & Chen, 2014)。

さらに、実際のカップルを実験室に招き、二人の間で意見が一致していない問題について話してもらった研究も行われています。ここで重要なのは、睡眠不足の影響が本人だけで完結していなかったことです。一方の睡眠状態が悪い場合、葛藤について話しているときのポジティブな感情とネガティブな感情のバランスが悪くなり、本人だけでなくパートナーについても、相手の感情をどれだけ正確に理解できるかという「感情理解の正確さ」が低いことと関連していました(Gordon & Chen, 2014)。

問題をどの程度解決できたかについても、二人の睡眠状態が関係していました。葛藤の解決は、どちらか一方だけではなく、二人とも十分に休めていた場合に最も良好でした。夫婦の話し合いは一人で行うものではないため、自分の睡眠状態が、二人の相互作用全体と結びつく可能性があるという点は重要です(Gordon & Chen, 2014)。

ただし、「寝不足になれば必ず夫婦喧嘩が起こる」という意味ではありません。この研究だけから、睡眠不足と葛藤のすべてを単純な因果関係として説明することもできません。まして、「一晩寝れば夫婦問題が解決する」ということでもありません。読み取れるのは、睡眠状態が悪いときには、感情のバランスを保つ、相手の気持ちを読み取る、二人で問題を整理するといった、話し合いに必要な働きが十分に発揮されにくい可能性があるということです。

日常生活では、深夜に話し合いが悪化してきたとき、「もうこの話はしない」と打ち切るのではなく、「明日の○時に続きを話そう」と具体的に決める方法が考えられます。これは問題から逃げることとは違います。解決する意思は残したまま、二人がより話し合いやすい状態になるまで結論を延期するという選択です。

夫婦問題を解決するには、何を言うか、どう伝えるかだけを工夫すればよいわけではありません。大切な問題ほど、「話し合える状態」で話すことにも意味があるのです。

習慣⑦ 「ありがとう」に、何が嬉しかったかを一言加える

長く一緒に暮らしていると、相手がしてくれることを「いつものこと」として受け止めやすくなります。食事を用意する、子どもの送り迎えをする、買い物をする、予定を調整する。こうした行動に感謝していても、それを毎回言葉にしているとは限りません。

ここでいう感謝は、第1節で扱った「良いニュースへの反応」とは少し違います。第1節では、相手自身に起きた嬉しい出来事を一緒に喜ぶことを取り上げました。この節で考えるのは、相手が自分や家庭のためにしてくれたことを認識し、その感謝を本人へ返すことです。

同居するカップルの双方に日々の経験を記録してもらった研究では、パートナーから思いやりのある行動を受けたときには、感謝と「借りができた」という感覚の両方が生じ得ることが示されています。しかし、この二つは同じようには働いていませんでした。日々のやり取りから生じた感謝は、翌日のパートナーとのつながりや関係満足度の高さを予測し、その関連は感謝した側だけでなく、感謝される側にもみられました(Algoe et al., 2010)。

さらに、感謝は「感じているか」だけでなく、「どのように表現するか」という側面からも研究されています。カップルが実際に相手へ感謝を伝える場面を録画して分析した研究では、自分がどれほど助かったかに焦点を当てるだけでなく、相手の行動や性質を評価する「other-praising」の要素が強いほど、感謝された側は、相手が自分を理解し、大切にしてくれていると感じやすく、良い気分や愛情を感じる程度も高い傾向がみられました(Algoe et al., 2016)。

たとえば、「ありがとう。迎えに来てもらえて助かった」と自分が受けた利益を伝えるだけでなく、「忙しいのに迎えに来てくれてありがとう」「そこまで考えてくれたのが嬉しかった」と、相手の気遣いや行動そのものにも言葉を向けるということです。

ただし、「ありがとうに一言加えれば夫婦関係が必ず改善する」とまでは言えません。これらの研究が示しているのは、日常の感謝や相手を評価する感謝表現が、二人のつながりや、感謝された側の受け止め方と結びついているということです。具体的な言葉を機械的に繰り返すより、相手が実際にしてくれたことを認識して伝えることが、この知見を生活に生かすうえでは重要でしょう。

そして、協力を当然のものとせず、相手の貢献を認識して返すという考え方は、夫婦だけに限られません。職場での人間関係については、職場で協力してくれる人を増やすには――組織行動論から考える6つの方法でも取り上げています。

感謝とは、単なる礼儀ではなく、相手の貢献を認識し、その認識を本人へ返す行動でもあるのです。

習慣⑧ 性生活では、その後の親密な時間も大切にする

夫婦の性生活について考えるとき、「どのくらいの頻度で性交しているか」に目が向きがちです。しかし、性生活のあり方を回数だけで捉えると、見落としてしまうものがあります。その一つが、性交が終わった後に二人がどのように過ごしているかです。

性交後の親密な行動について調べた研究では、抱き合う、触れ合う、親密に話すといった行動を「post-sex affection」として捉え、その長さや満足度と、性生活や二人の関係に対する満足度との関連を検討しています(Muise et al., 2014)。

まず、恋愛関係にある335人を対象とした調査では、性交後の親密な時間が長い人ほど性的満足度が高く、それを通じて関係満足度も高いという関連がみられました。さらに重要なのは、この関連が、普段の愛情表現や性交頻度、前戯や性交そのものにかける時間などを考慮した分析でも確認されたことです(Muise et al., 2014)。

さらに、継続的な関係にある101組、202人のカップルを追った日誌研究では、日による変化まで調べられています。普段の自分たちより性交後の親密な時間が長かった日には、性的満足度が高く、それを通じて関係満足度も高い傾向がみられました。また、性交後の親密な時間そのものに対する満足度が高い日には、性的満足度だけでなく関係満足度も高く、パートナー側の満足度との関連も確認されています(Muise et al., 2014)。

この研究では、その場限りの関連だけではなく、3か月後の追跡も行われました。日誌調査の期間を通して、性交後により長く、満足度の高い親密な時間を過ごしていた人ほど、3か月後にも性的満足度や関係満足度が高い傾向がみられています(Muise et al., 2014)。

ただし、「性交後に長く抱き合えば、夫婦関係が良くなる」と因果関係を断定することはできません。これは特定の行動を無作為に割り当てた介入実験ではなく、満足しているカップルだからこそ性交後にも親密に過ごしやすいという逆方向の可能性も残ります。実際、研究でも双方向の関連があり得ることが検討されています。

また、この知見から「夫婦なら週に何回性交すべきだ」といった基準を導くこともできません。性生活の頻度や形には大きな個人差がありますし、この研究結果を性交のない夫婦にそのまま一般化することも適切ではありません。研究から読み取れるのは、性交がある関係では、その経験を性交そのものだけで区切らず、その後に二人が過ごす時間にも目を向ける余地があるということです。

身体的な親密さは、「何回したか」という量だけではなく、その経験を二人がどのように共有するかにも関係しているのです。

8つの習慣に共通するもの――夫婦関係は日常の「小さな投資」で維持される

ここまで見てきた8つの習慣は、一見すると別々の話に見えます。相手の良いニュースを一緒に喜ぶことは感情の問題、新しい経験や二人だけの儀式は余暇や日常の過ごし方、お金や家事は家庭運営の問題です。さらに、睡眠、感謝、性生活まで含めると、一つの原則でまとめるのは難しいようにも思えます。

しかし、日常の行動という視点から見ると、共通点が見えてきます。良いニュースを聞いたときに、すぐ自分の話へ移らず、もう少し相手に注意を向ける。ときどき二人で新しい経験をする。何でもない行動に「私たちの恒例」という意味を持たせる。お金について二人で考える領域をつくり、家事や家庭内の負担についても、ときどき認識を確かめる。疲れている夜には重大な結論を急がず、感謝するときには相手の行動にも言葉を向ける。そして性生活では、回数だけでなく、その後の親密な時間にも目を向ける。どれも大がかりな行動ではありません。

共通しているのは、時間・注意・お金・体力という有限な資源を、二人の関係へ少しずつ配分していることです。相手の話をあと少し聞くには注意と時間が必要です。新しい経験には時間や、ときにはお金が必要です。家事を担うには体力が、感謝を伝えるには相手の行動へ注意を向けることが必要になります。睡眠を確保してから重要な問題を話すことも、自分たちの体力や認知的な余力をどう使うかという選択です。

ここでいう「投資」は、金融投資のように、投入した分だけ将来の利益が保証されるという意味ではありません。人間関係に確実なリターンはありません。ここでの小さな投資とは、将来も大切にしたい関係のために、現在持っている有限な資源を配分することです。

そのため、夫婦円満のために大きなお金を使い続ける必要もありません。「ありがとう」に一言加える、相手の話を少し長く聞く、疲れた夜は話し合いを翌日に回す、ときどき知らない場所へ行ってみる。こうした選択も、関係への資源配分です。

問題は、時間や体力を無限に増やすことができない点にあります。仕事、家事、育児などに時間を使えば、別のことに使える時間は減ります。だからこそ、重要性の低い部分を効率化し、そこで生まれた時間を何へ振り向けるかが重要になります。この「効率化した先」をどう考えるかについては、タイパ・コスパを追求すると幸せになれるのか――効率化と幸福の研究でも取り上げています。

夫婦関係は、特別な日にだけ維持するものではありません。毎日の限られた資源を何に使うかという小さな選択のなかに、二人の関係への配分も含めておく。その積み重ねを、夫婦関係への「小さな投資」と捉えることができます。

夫婦円満とは、大切な関係への資源配分を続けることである

夫婦円満のために、毎日特別なことをする必要はありません。ここまで見てきた研究から浮かび上がるのは、むしろ日常のなかにある小さな行動です。

相手に良いことがあれば、その喜びに少し長く注意を向ける。ときどき二人で新しい経験をし、何でもない時間にも「私たちの恒例」という意味を持たせる。お金や家庭内の負担について一緒に考え、疲れている夜には重大な結論を急がない。そして、相手がしてくれたことへの感謝を具体的に伝え、二人の親密な時間を大切にする。どれも、それだけで夫婦円満を保証する方法ではありません。しかし、関係を維持していくために日常でできることは、決して特別なものばかりではありません。

人生には、仕事、育児、家事、学び、自分自身の休息など、時間や注意を必要とするものが数多くあります。そのなかで夫婦関係は、「今のところ問題がない」という理由で後回しになりやすいものです。しかし、人間関係は必要になったときに短期間で作り直せるとは限りません。

だからといって、夫婦関係だけに時間や労力を集中させればよいわけでもありません。人生で使える時間、注意、お金、体力には限りがあります。重要なのは、仕事や子育て、自分自身の時間とのバランスを取りながら、大切な関係への資源配分をゼロにしないことです。

家族や友人とのつながりも、短期間で手に入れるものではなく、長い時間をかけて形成されていく資本として捉えることができます。この視点については、40代から何に投資すれば老後は幸せになるのか――晩年の幸福を支える5つの資本でも取り上げています。

夫婦円満とは、強い愛情を持ち続けることだけではありません。限られた人生資源のなかから、時間・注意・お金・体力を大切な関係へ少しずつ配分し、二人の関係を日々更新し続けることなのです。

参考文献

  • Algoe, S. B., Gable, S. L., & Maisel, N. C. (2010). It’s the little things: Everyday gratitude as a booster shot for romantic relationships. Personal Relationships, 17(2), 217–233.
  • Algoe, S. B., Kurtz, L. E., & Hilaire, N. M. (2016). Putting the “you” in “thank you”: Examining other-praising behavior as the active relational ingredient in expressed gratitude. Social Psychological and Personality Science, 7(7), 658–666.
  • Aron, A., Norman, C. C., Aron, E. N., McKenna, C., & Heyman, R. E. (2000). Couples’ shared participation in novel and arousing activities and experienced relationship quality. Journal of Personality and Social Psychology, 78(2), 273–284.
  • Gable, S. L., Reis, H. T., Impett, E. A., & Asher, E. R. (2004). What do you do when things go right? The intrapersonal and interpersonal benefits of sharing positive events. Journal of Personality and Social Psychology, 87(2), 228–245.
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