仕事で成果を出したい。資格を取得したい。副業を軌道に乗せたい。健康になりたい。何か実現したいことができると、私たちはまず「何をすればいいか」を考えます。毎日2時間勉強する、営業件数を増やす、毎日記事を書く、週5日運動する。目標を具体的な行動へ落とし込むことは、実現へ向かううえで重要です。
しかし、行動を増やす前に考えられることもあります。そもそも、なぜその目標を追っているのでしょうか。自分が本当に望んでいるからなのか、それとも周囲の期待や焦りに動かされているのか。いまの自分は落ち着いて判断しているのか、不安や義務感のなかで「何かしなければ」と感じているのか。同じ目的を実現する方法は、本当に一つしかないのでしょうか。
人の意思決定は、行動だけで成り立っているわけではありません。その背景には、目標や動機があり、そのときの感情や置かれた状況があります。何に注意を向け、状況をどう解釈し、どの選択肢を選ぶかによって、その後の行動も変わりえます。だからといって、心理状態の方が行動より重要だという単純な話でもありません。
本記事では、心理学や行動科学の研究をもとに、目標と自分の価値観の一致、現在の行動から得られる報酬、感情と意思決定、自己コントロールと状況の関係を順に検討します。中心となる問いは、「もっと何をするか」を考える前に、「自分はいま、どのような状態・動機・状況からそれをしようとしているのか」を考えることに意味があるのか、ということです。
もちろん、ポジティブな気分でいれば成功するわけでも、行動しなくても望む結果が得られるわけでもありません。一方で、結果を変えるためには常に行動量を増やせばよい、とも限りません。この記事では「行動しないこと」を勧めるのではなく、行動だけを最初から唯一の操作対象にせず、その前後を含めた意思決定全体から考えていきます。
なぜ私たちは「何をするか」から考えてしまうのか
何かがうまくいかないとき、私たちは「次に何をするか」を考えがちです。仕事で成果が出なければ働き方を増やす。勉強が進まなければ勉強時間を増やす。運動が続かなければ、より厳しい計画を立てる。行動は目に見えやすく、変える対象としても具体的です。そのため、問題を解決しようとすると、まず行動に目が向くのは不自然なことではありません。
もちろん、結果を変えるために行動を変える必要がある場面はあります。試験に合格するには学習が必要ですし、仕事上の目標を実現するにも何らかの行動が必要です。問題は、期待した結果が得られない理由を、すぐに「行動が足りないから」と考えてしまうことです。
たとえば、資格の勉強が続かない人がいたとします。単純に勉強時間を増やそうとする前に、いくつか別の可能性を考えられます。その資格は本人が本当に取得したいものなのか。周囲から評価されたいという理由が大きいのか。疲れている時間帯に勉強しようとしていないか。勉強方法そのものが苦痛になっていないか。集中しにくい環境で、毎回自分を律することを求めていないか。同じ「勉強が続かない」という結果でも、その背景は一つとは限りません。
つまり、人の意思決定を理解するには、目に見える行動だけでなく、その周囲にある目標、動機、感情、状況、判断、選択にも目を向ける必要があります。これらは「目標が決まれば、次に感情が生じ、その後に判断して行動する」という一方向の順序で並んでいるわけではありません。行動した結果によって気持ちが変わることもあれば、置かれた状況によって選択肢の見え方が変わることもあります。
この視点に立つと、「もっと頑張る」という解決策も相対化できます。必要なのは努力を否定することではありません。努力を増やす前に、そもそも何を目指しているのか、なぜそれを目指しているのか、どのような状態や状況からその行動を選ぼうとしているのかを確認することです。
「何をするか」だけを最適化するのではなく、その行動を生み出す目標・動機・感情・状況・判断まで含めて意思決定全体を見る。そう考えると、「頑張る」という選択も、数ある選択肢の一つとして改めて検討できるようになります。
その目標は本当に自分のものか
目標が決まると、次に考えやすいのは「どう達成するか」です。勉強時間を増やす、仕事の量を増やす、毎日続ける。けれど、その前に確認したいのが、そもそもその目標が自分にとってどのような意味を持っているかです。
心理学では、目標が本人の興味や価値観とどの程度一致しているかを考える概念として、self-concordance(自己一致)が研究されています。SheldonとElliotは、目標がその人の発達しつつある興味や中核的な価値観と一致している程度に注目し、目標追求との関係を検討しました。研究では、自己一致の高い目標を追う人ほど、その目標に持続的な努力を投入しやすく、その努力を通じて目標を達成しやすいという関係が示されています。citeturn249611search2
ここで重要なのは、「自分に合った目標なら努力しなくてよい」ということではありません。むしろ逆です。自己一致した目標でも、実現するためには時間を使い、難しい課題に取り組み、途中で修正する必要があります。違いは、必要な努力を続けるための理由が、自分の内側にあるかどうかです。
たとえば資格取得を目標にしている場合でも、「取得すれば周囲から評価されそうだから」という理由と、「この分野を学ぶことが自分の将来にとって意味がある」と考えている場合では、同じ資格でも目標の位置づけは異なります。前者が必ず悪いわけではありませんし、外的な理由が含まれてはいけないわけでもありません。ただ、行動が続かないときに、すぐ「自分は意志が弱い」と結論する前に、目標と自分との関係を見直す余地があります。
これは「本当にやりたいことだけをすればよい」という話でもありません。仕事、家族、生活には、自分の好みだけでは決められない責任があります。また、SheldonとElliotの研究から、自己一致した目標なら必ず達成できるとも言えません。研究が示しているのは、自己一致と持続的努力、そして目標達成との間に一定の関係があるということです。citeturn249611search2
それでも、この視点には重要な意味があります。目標が達成できないとき、改善すべき対象を行動量だけに限定しなくて済むからです。「もっと頑張るにはどうするか」と考える前に、「これは本当に自分が実現したいことなのか」「その先に自分が望む生活があるのか」を確認できます。
努力を増やす前に確認したいのは、努力できるかどうかだけではなく、その努力をどの方向へ向けようとしているのかです。行動を変える前に目標との関係を見直すことも、意思決定の一部として考える必要があります。
将来の成果だけを見て、現在を我慢し続ける必要はあるのか
長期的な目標について考えるとき、私たちは将来得られる成果に目を向けがちです。運動するのは将来の健康のため、勉強するのは資格や知識を得るため、仕事で新しい能力を身につけるのは将来の選択肢を増やすため、といった具合です。こうした将来の利益は、行動を始める重要な理由になります。
しかし、将来の利益が大きいと分かっていることと、その行動を実際に続けられることは同じではありません。健康に良いと理解していても運動をやめてしまうことがありますし、資格取得の価値を理解していても勉強を続けられないことがあります。そこで注目したいのが、将来得られる「遅延報酬」だけでなく、その行動をしている最中に得られる「即時報酬」です。
WoolleyとFishbachは、運動、健康的な食事、学習といった長期目標に関係する活動を対象に、即時報酬と行動の持続との関係を複数の研究で検討しました。ここでいう即時報酬とは、たとえば運動している最中の楽しさのように、目標を追求している現在に経験できる利益を指します。一方、健康状態の改善など、行動の結果として後から得られる利益が遅延報酬です。
研究では、運動を選ぶ際に「最も役に立ちそうなもの」より「最も楽しめそうなもの」を選んだ参加者の方が、運動を長く続けました。また、健康的な食品について即時的な魅力に注意を向ける条件や、高校生の課題に音楽などの即時報酬を加える条件でも、行動の持続や消費量に違いがみられました。複数の研究を通じて、即時報酬は遅延報酬よりも、その場での活動の持続を強く予測していました。
この結果から考えられるのは、長期目標のために現在をできるだけ我慢することだけが、目標追求の方法ではないということです。たとえば運動なら、理論上もっとも効率が高そうな方法だけを選ぶのではなく、長期的な健康という目的にかなう選択肢の中から、自分が楽しめて「またやりたい」と思えるものを選ぶことができます。学習でも、最短時間で進められる方法だけではなく、興味を維持しながら取り組める教材や方法を検討できます。
ただし、これは「楽しいことだけをすればよい」という意味ではありません。即時的に魅力的な選択が、長期的な目標と矛盾する場合もあります。また、この研究から、即時報酬を用意すれば必ず長期目標を達成できるとも言えません。研究が直接扱っているのは、主として目標に関連する活動をその場でどれだけ持続するかという問題です。長期的な成果そのものと区別して考える必要があります。
実際に行動を続けるための目標設定や行動計画、習慣形成については、「継続は力なりは本当?物事を続けるための5つの方法を心理学から考える」で詳しく検討しています。ここで重要なのは、そのさらに手前にある「どの方法を選ぶか」という意思決定です。
長期目標を設計するときには、未来の自分が得る成果だけでなく、現在の自分がその行動をどのように経験するかも考える。将来にとって意味のある選択肢の中から、現在にも楽しさや興味、満足感といった報酬がある方法を探すことは、長期目標を諦めることではなく、その目標を追い続けるための一つの考え方です。
感情は判断や選択にどのように影響するのか
重要なことを決めるとき、私たちは「できるだけ冷静に考えよう」とします。感情に左右されず、情報を集め、合理的に比較すれば、よりよい判断ができるように思えるからです。しかし、心理学の研究では、感情は判断や選択から簡単に切り離せるものではないことが示されています。
感情と意思決定に関する過去35年ほどの研究を整理したLernerらのレビューでは、感情はさまざまな領域の判断や選択に影響し、その影響は有害な場合もあれば、有益な場合もあると整理されています。つまり、「感情に動かされること=非合理的」と単純に考えることはできません。判断の対象そのものから生じる感情が、意思決定に意味のある情報を与える場合もあります。
さらに重要なのは、感情を単純に「ポジティブ」と「ネガティブ」に分けるだけでは、その影響を十分に説明できないことです。同じネガティブな感情でも、怒りと恐れでは判断への影響が異なることがあります。レビューで紹介されている研究では、怒りは確実性や自分で状況をコントロールできるという認識と結びつきやすく、恐れは不確実性や状況に左右されるという認識と結びつきやすいと整理されています。その違いに対応して、怒りを感じている場合にはリスクを低く、恐れを感じている場合にはリスクを高く評価する傾向が示された研究もあります。
これは、怒っている人は必ず危険な選択をする、あるいは不安な人は必ず慎重になる、という意味ではありません。感情が判断に与える影響は、意思決定の内容や状況などによっても変わります。ここで重要なのは、同じ「嫌な気分」であっても、その感情の種類によって物事の見え方が異なりうるという点です。
また、判断とは直接関係のない出来事から生じた感情が、別の判断へ持ち越される場合もあります。たとえば、仕事で腹の立つ出来事があった後、その感情を抱えたまま別の問題について判断すると、元の出来事とは関係がなくても、そのときの感情が評価や選択に影響する可能性があります。仕事上の嫌な出来事を繰り返し考えてしまう問題については、「仕事の愚痴はなぜ時間の無駄になるのか?研究から考える『嫌な仕事』を家まで持ち帰らない方法」で、反すうや心理的ディタッチメントの研究から詳しく検討しています。
だからといって、重要な判断は「良い気分」になってから行えばよい、という結論にはなりません。ポジティブな感情が常によい判断を生み、ネガティブな感情が常に判断を悪くするわけではないからです。感情をなくして完全に合理的になろうとすることも、この研究から導かれる答えではありません。
重要なのは、判断の内容だけを見るのではなく、「いま自分が感じていることが、この判断に影響している可能性はないか」と自分の状態も判断材料の一つとして認識することです。「何を選ぶべきか」を考えるとき、その選択をしている自分がどのような感情状態にあるのかまで視野に入れることが、意思決定を一段広く捉えることにつながります。
誘惑と戦うことだけが自己コントロールではない
自己コントロールという言葉から、「やりたいことを我慢する力」を思い浮かべる人は多いかもしれません。勉強中にスマートフォンを見たくなっても我慢する。健康のために食べたいものを控える。仕事を先延ばししたくなっても、気持ちを奮い立たせて取りかかる。こうした場面では、誘惑が生じた後に自分の意思で抵抗することが自己コントロールとして意識されやすくなります。
しかし、日常生活における自己コントロールを調べた研究からは、目標達成を「誘惑に何度勝てたか」だけで説明することの限界も見えてきます。MilyavskayaとInzlichtは、経験サンプリング、日誌、学期を通じた追跡を組み合わせ、日常的な誘惑、努力を伴う自己コントロール、消耗感、個人的な目標の達成との関係を調べました。
そこで示されたのは、誘惑を経験したときに積極的に抵抗した程度よりも、そもそも誘惑を多く経験していたことの方が、目標達成の低さと関係していたという結果です。また、誘惑を多く経験することは消耗感とも関連し、その消耗感が誘惑と目標達成との関係を媒介していました。これは日常生活を追跡した研究であり、「誘惑を減らせば必ず目標を達成できる」という因果関係を証明したものではありません。それでも、目標達成を考えるときに、誘惑が生じた後の抵抗だけを見るのでは不十分である可能性を示しています。
では、誘惑との衝突そのものを減らすことはできるのでしょうか。Duckworthらは、自己コントロールを状況の選択や変更まで含めて捉える理論的な枠組みを提示しています。たとえば、勉強するときにスマートフォンを手元に置いて通知が来るたびに我慢するのではなく、別の部屋に置いておく。集中したいなら、誘惑の多い場所を避けて作業場所を選ぶ。このように、望ましくない衝動が強くなってから抵抗する前に、状況そのものへ働きかける方法があります。
同じ考え方は、望ましい行動をしやすくする方向にも使えます。読みたい本を目につく場所に置く、運動の準備をあらかじめ済ませておくなど、必要な行動へアクセスしやすい状況をつくることもできます。ここでは、自分の意思を強くすることよりも、自分と環境との関係を設計することに目を向けています。
ただし、状況を変える方法が意志力より常に優れていると結論することはできません。MilyavskayaとInzlichtの研究は、日常生活で観察された関連を中心にしたものであり、環境変更の効果を直接比較した実験ではありません。また、Duckworthらの論文も、状況を利用した自己コントロールを理論的に整理したもので、あらゆる場面でその方法が最善だと実証したものではありません。現実には避けられない誘惑もあり、その場で抵抗する力が必要になることもあります。
自己コントロールを「誘惑が目の前に現れるたびに、自分の内面で戦って勝つこと」だけに限定しないことが重要です。もっと我慢できる自分になろうとするだけでなく、そもそも何と戦う必要があるのか、状況を選んだり変えたりする余地はないのかまで含めて考える。それも、目標へ向かうための自己コントロールの一部です。
心理状態が重要でも、行動が不要になるわけではない
ここまで見てきた研究からは、目標が自分の価値観とどの程度一致しているか、行動そのものにどのような報酬があるか、そのとき何を感じているか、どのような状況に置かれているかといった要因が、目標への努力や判断、選択、行動の持続と関係しうることが分かります。では、自分の心理状態を整えることができれば、行動しなくても望む結果に近づけるのでしょうか。
ここでは、研究から言えることと言えないことを分ける必要があります。これまで扱ってきた研究は、自分と一致した目標と持続的な努力、即時報酬と行動の持続、感情と判断、日常的な誘惑と目標達成などの関係を検討しています。つまり、目標や動機、感情、状況は、その後の判断や選択、行動と切り離されたものではありません。
一方で、これらの研究は、特定の心理状態を維持するだけで、それとは別の因果過程を経ずに外部の結果が生じることを示したものではありません。資格を取得するには必要な学習や試験があります。仕事上の成果にも、その成果につながる判断や行動が必要になるでしょう。心理状態を整えることと、現実の結果を生み出す過程そのものを同一視することはできません。
しかし、だからといって心理状態を無視して「とにかく行動すればよい」と考えるのも、ここまでの研究から導かれる結論ではありません。何を目標にするかによって努力の持続は変わりえます。活動中に得られる報酬は継続と関係します。感情は判断や選択に影響しうるほか、誘惑と何度も戦わなければならない状況そのものが目標追求と関係している可能性もあります。
重要なのは、行動を否定することではなく、行動だけを結果の唯一の原因として扱わないことです。目標、動機、心理状態、状況、判断、選択、行動は互いに関わりながら、結果へ至る過程を形づくります。
だからこそ、「もっと頑張るべきか」を考えるときには、行動量だけでなく、その行動がどのような状態や状況から生まれているのかにも目を向ける意味があります。どう感じているかは重要になりえます。しかし、それは何もしなくてもよいという意味ではありません。状態と行動を対立させるのではなく、どちらも意思決定の一部として捉えることが必要です。
状態と行動を一つの意思決定プロセスとして考える
ここまで見てきた研究を踏まえると、「心理状態と行動のどちらが重要なのか」という問いそのものを見直す必要があります。自分と一致した目標は持続的な努力と関係し、行動中に得られる即時報酬はその行動の持続と関係します。感情は判断や選択に影響しうる一方、目標を追う過程でどれだけ誘惑にさらされるかも、目標達成と無関係ではありません。これらを考えると、結果を心理状態か行動のどちらか一方だけで説明するのは単純すぎます。
そこで、この記事ではこれまでの知見を、人生の意思決定を考えるための一つのフレームとして整理します。それは、「目標・動機」「心理状態」「判断・選択」「行動」「結果」が互いに関係し、さらにその全体を「状況・環境」が取り囲んでいるという捉え方です。
ただし、これは既存の一つの心理学理論ではなく、一本の研究によって検証された因果モデルでもありません。ここまで紹介した複数の研究を、「人生戦略論」の観点から整理するための編集上のフレームです。そのため、「目標・動機→心理状態→判断・選択→行動→結果」という一方向の順序が常に成立すると考えるべきではありません。
実際には、関係はもっと循環的です。たとえば、気分が乗らなくても運動を始めた結果、心理状態が変わることがあります。仕事で得られた結果によって、それまで追っていた目標を見直すこともあります。同じ人でも、スマートフォンが目の前にあるか別の部屋にあるかによって、集中を維持するために必要な自己コントロールは変わるかもしれません。心理状態が行動に影響するだけでなく、行動が心理状態を変え、結果が次の判断や目標に影響し、状況がその全体に関わっているのです。
したがって、「まず良い状態になれば、正しい行動が自然に生まれ、その結果として成功する」と考えるのも適切ではありません。状態を整えることには意味がありえますが、実際に行動することで初めて分かることもあります。重要なのは、状態と行動のどちらか一方を優先することではなく、両者の関係を含めて意思決定を調整していくことです。
同じことは、行動の効率化についても言えます。より短い時間で、より多くのことをできるようになるのは有用です。しかし、行動量や効率を高めることと、人生全体がよりよくなることは同じではありません。効率化によって生まれた時間やお金を何へ配分するかという問題については、「タイパ・コスパを追求すると幸せになれるのか――効率化と幸福の研究から考える人生の資源配分」で詳しく検討しています。
人生戦略として最適化したいのは、単純な行動量ではなく、何を目指すのか、どのような状態や状況にいるのか、そこで何を判断し、どのように行動するのかという意思決定全体です。「状態か、行動か」と二者択一で考えるのではなく、それぞれが互いに影響しながら変化していく一つのシステムとして捉えることが重要です。
行動前に確認したい6つの問い
ここまで見てきた研究は、「頑張らない方がよい」という結論を示しているわけではありません。むしろ重要なのは、時間や注意を投入する前に、目標、心理状態、方法、状況を一度確認することです。仕事、学習、健康、キャリアなどで「もっとやらなければ」と感じたとき、次の6つの問いは、そのための判断材料になります。
1.これは本当に自分が進みたい方向か
最初に確認したいのは、努力の量ではなく方向です。自分の興味や価値観と一致した目標では、持続的な努力が生じやすいという研究を踏まえると、「どうすればもっと頑張れるか」の前に、「なぜこの目標を追っているのか」を考える意味があります。他人から評価されたい、期待に応えたいといった理由が含まれること自体が問題なのではありません。それだけでなく、自分にとってどのような意味がある目標なのかを確認します。
2.いま、自分はどんな状態にいるか
次に、判断している自分の状態を確認します。焦っているのか、不安なのか、怒っているのか、義務感に追われているのか。反対に、興味や好奇心を感じているのか。感情を「良い」「悪い」と評価することが目的ではありません。自分がどのような状態にいるのかを認識することが出発点です。
3.現在の状態が、判断に影響している可能性はないか
感情は判断や選択と無関係ではなく、しかも怒り、不安、悲しみなどによって影響の仕方が異なりえます。そこで、「いまの感情が、この問題の見え方を変えていないか」と考えます。感情を排除して完全に合理的になろうとするのではなく、現在の状態も意思決定に影響しうる一つの要因として扱います。
4.同じ目的を達成する別の方法はないか
目標が重要でも、その達成方法まで一つに固定する必要はありません。長期目標に関わる行動では、将来得られる成果だけでなく、行動中の楽しさや興味といった即時報酬も持続と関係します。運動なら、効果だけで選ぶのではなく、目的にかなう範囲で続けやすい種目を探す。学習なら、最短の方法だけでなく、興味を維持できる方法も検討する。目標を変えずに、そこへ至る経路を変えることはできます。
5.自分を変えるだけでなく、状況を変えられないか
行動できないと、「もっと意志を強くしなければ」と考えがちです。しかし、誘惑にさらされ続けながら毎回抵抗することだけが自己コントロールではありません。集中を妨げるものから距離を取る、望ましい行動を始めやすくしておくなど、状況側へ働きかける余地もあります。自分の内面だけを改善対象にせず、「この環境のままで頑張り続ける必要があるのか」と考えてみます。
6.ここまで確認したうえで、いま取るべき選択は何か
最後に、改めて行動を選びます。予定どおり行動することもあれば、方法を変えることもあります。情報が足りなければ判断を保留することも、目標そのものに意味を見いだせなくなったならやめることも選択肢です。ここで「自然にやりたくなったこと」を正解とは考えません。目標、動機、感情、状況を確認したうえで、何を選ぶのが妥当なのかを改めて判断します。
この6つの問いは、行動を減らすためのものではありません。限られた時間や注意を使う前に、「もっと頑張る」以外の可能性も含めて検討し、自分の資源をどこへ、どのように投入するかをよりよく選ぶための問いです。
人生を変えたいとき、最初に変えるのは「行動」とは限らない
何かを実現したいなら、行動が必要になることがあります。資格を取るには学び、仕事で成果を出すには必要な仕事を進めなければなりません。難しい目標であれば、相応の努力が必要になることもあります。この記事で考えてきたのは、努力そのものを否定することではありません。
ただし、思うような結果が出ないとき、「もっと行動する」「もっと頑張る」ことだけが最初の答えとは限りません。行動量を増やす前に、その目標は自分が本当に望んでいるものなのか、なぜそれを追っているのかを考えることができます。焦りや不安、怒り、義務感などが判断に影響していないかを確かめることもできます。同じ目的を実現する別の方法を探したり、自分の意志を強くするのではなく、行動しやすい状況をつくったりすることも選択肢です。
これは、心理状態を整えて待っていれば、望む結果が生まれるという話ではありません。目標、動機、感情、状況は判断や選択に関わり、判断や選択は行動につながり、行動によって初めて生じる結果があります。同時に、行動した結果によって心理状態が変わったり、目標そのものを見直したりすることもあります。状態と行動のどちらか一方を重視するのではなく、その関係全体を見る必要があります。
この視点が人生戦略にとって重要なのは、私たちが無制限に頑張れるわけではないからです。人生で使える時間、注意、精神的エネルギー、判断力、体力には限りがあります。焦りや義務感から行動量を増やし続ければ、それだけ別の仕事、学び、休息、人間関係などへ配分できる資源は少なくなります。だからこそ、「どれだけ頑張れるか」だけでなく、「この努力へ資源を使うことは、自分の人生全体から見て妥当なのか」を考える必要があります。
こうした考え方の土台となる、人生の有限な資源を何に、どれだけ、いつ配分するかという問題については、「人生戦略とは何か――よりよく生きるために、限られた資源をどう配分するか」で詳しく整理しています。
人生戦略とは、常に行動量を最大化することではありません。自分が何を望み、どのような状態や状況から判断しているのかを確かめながら、限られた時間・注意・精神的エネルギーを、よりよい判断と選択につながるところへ配分していくことです。頑張ることを考えるのは、そのあとでも遅くありません。
参考文献
- Duckworth, A. L., Gendler, T. S., & Gross, J. J. (2016). Situational strategies for self-control. Perspectives on Psychological Science, 11(1), 35–55.
- Lerner, J. S., Li, Y., Valdesolo, P., & Kassam, K. S. (2015). Emotion and decision making. Annual Review of Psychology, 66, 799–823.
- Milyavskaya, M., & Inzlicht, M. (2017). What’s so great about self-control? Examining the importance of effortful self-control and temptation in predicting real-life depletion and goal attainment. Social Psychological and Personality Science, 8(6), 603–611.
- Sheldon, K. M., & Elliot, A. J. (1999). Goal striving, need satisfaction, and longitudinal well-being: The self-concordance model. Journal of Personality and Social Psychology, 76(3), 482–497.
- Woolley, K., & Fishbach, A. (2016). For the fun of it: Harnessing immediate rewards to increase persistence in long-term goals. Journal of Consumer Research, 42(6), 952–966.

